絵本『プペル』の仕組み(美術の視点から)
こんばんは。にゃんちーです。(本日2回目)
書いたでー。
何の話かというと、先のblogをご一読いただければ幸いでごじゃります。
『えんとつ町のプペル』は色々と分業制の絵本です。
文章を書く人、キャラ描く人、背景描く人などなど、特化した人に任せて合体させているわけです。絵本の巻末にはザザーっとスタッフ名が列記されています。
これ、どっかに同じような仕組みがあったな…と。
面倒なので、結論から先に書きます。
この分業制で1つの作品を完成させるもの。
それは 浮世絵 です。
(他にも映画やドラマ、バラエティー番組だって同じだと思います)
どうしてか、という説明をするには、浮世絵がどのような工程を経て作成されていたものかを説明せねばなりません。
私、専門、ちょっと違うけど美術よりのものなんです。美術なんて道楽知識がここで役に立つとは!
なにせ、浮世絵は分業制です。
浮世絵というと、例えば葛飾北斎とか、広重とか、写楽とか思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
それ、みんな絵師の名前です。
ではどのように浮世絵が製作されていたのか。浮世絵は基本的に木版画です。
絵を描く(絵師)→絵をもとに版木を作成する(彫師)→版木を和紙に刷る(刷師)というのが一連の工程になっています。
で、ここを 浮世絵工房 つまるところ 版元 と言います。今でいう出版社にあたると思います。
そして版元、先に記述したとおり、現在でいうところの出版社でもありますが、誰に何を制作させるのかという企画までしていたので、総合プロデューサーとでもいいましょうか。
浮世絵の花を咲かせた人物として版元の蔦屋重三郎の存在は外せません。蔦屋が育てた浮世絵師に、北川歌麿も東洲斎写楽がいます。蔦屋の手によって、彼らは世に浮世絵師としてデビューするのです。
例えば、広重の有名な作品、東海道五十三次では、広重の落款(らっかん)つまり広重のサインしか見当たりません。もう少し詳しいことを言えば、広重がどこの版元から出していたかという繋がりはわかるので、他の工程に携わった人も推測はつきます。
でも広重は絵を書いただけ(それも凄いことなのですが)なのに、他の人の名前は出てこない…。
彫師は、版木を作るわけですが、これがないと刷ることができません。浮世絵と言うと、色彩豊かなイメージがあるでしょうけど、あの、色の数だけ版木が必要なのです。
黒を刷るための版木、赤をするための版木といったように…。いったい1つの作品をするのに何枚の版木がいるんだ!?と思いますよね。
微妙なグラデーションは、版木の彫の深さと、刷りの技術によるものです。
彫が深ければ絵の具がたっぷりつく、それを強く擦ればべったりと絵の具が和紙に付着するので濃くなる。薄くするにはその逆です。
同じように、刷るのにも技術を要します。
図工の授業で馬簾(ばれん)を使って版画をしたこと、ありませんか?
それと同じように、浮世絵も馬簾をつかってすりすりしていました。
何に技術が必要かって、まず一定の力で馬簾を擦らなければ、色むらが生じる。それも何枚も同じように刷るんですよ。だって1枚目は濃くて、100枚目は薄いなんてなっていたら、商品にならないじゃないですか。
それからもう一つ、何枚もある版木を1枚の和紙にあてて刷るわけです。ほんの少し版木と和紙の位置がずれたら当然刷りがずれるわけなので、黒の線の中に色が収まらないわけです。それをやはり、色の数だけ、版木と和紙をぴったり合わせて刷っていく。超神経つかう作業じゃない!?
私なら神経が擦り減る…刷るだけに。ぐふっ。
せっかくなので、浮世絵が分業制であることと、各々の名前が刷られた作品をペっとしました。↓
↑詳細はこちらから。
立命館のHPから拝借。私のblog非営利なので目を瞑っていただけないでしょうか…勝手に借りてすみません!浮世絵なので、著作権は切れています。そこは大丈夫じゃな。
絵師: 豊国
彫師: 彫竹
版元文字: 馬喰四木屋板 版元名: 木屋 宗次郎
大判の浮世絵ですねー。
作品中央の下部にご注目ください。
ここです、ここ。
色々ハンコみたいに刷られていますが…説明するとややこしいので、ここでは絵師・彫師・版元についてのみの説明といたします。はい。
左から…
赤く色のついている枠の中に 豊国画 とありあます。絵師です。絵師はだいたい、こうやって目立つように刷られています。花形的ポジションですよね、そう考えると。
絵師の右下に 彫竹 とありあます。これが彫師。
彫竹の斜め右上、四角で囲まれた中の文字は右から読むと 馬喰四木屋板 とあります。これが版元です。
そう。それぞれのプロによる技術の集結によって1枚の浮世絵が、こうして出来上がっていたのです。
これ、西野の『えんとつ町のプペル』と全く同じです。
それぞれ得意なものを活かしていく。結果、分業制。
西野さん、どうでしょうか。あたってる?笑
むしろ、これが偶然の産物、ノーヒントのアイディアによる分業制だったら、西野は平成の蔦屋ですな。すげーや。
以上!
美術lover にゃんちーの『えんとつ町のプペル』の仕組みについての考察でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました◎
そうだ!ついでに、言いたい…。(終わらねーのかよというツッコミは丁重に断るにゃん)
浮世絵を見る機会があったら、ぜひ、木目の有無に注目してもらいたい。
同じ作品でも、版木の木目(ようするに木の節とか年輪)が写っているものと、木目がないものとあります。
何故かというと、刷れば刷るほど木版、木が消耗していくからです。
木目は年輪なので固いところです。その年輪の間の木は柔らかいんですよね。だから柔らかい部分からへこんでいきます。結果丈夫な年輪の部分が木目として刷りによって写ってしまう。ということは、おそらく木目があるものは、沢山刷られた中でも後半に刷ったものという推測がつきます。
そしてもう1つ。
有名な作品にありがちですが、同じ絵師で同じタイトルの作品を別の場所で観る機会があったら、色の違いの有無に注目してみてください。
芸術の一回性という言葉があります。
美術の世界でいうとこれは、どれが「本物」なのかという話と繋がるのですが、版画のネックなところで、版木があるわけですから、使いまわすことが可能です。「偽物」が出回るとまでは言いませんが、色を変えて初版とは違う版(作品)が出回ることになります。リニューアルと言えば聞こえがいいですが、版木が割れたりしない限り、限りなく初版と同じ状態の色違い作品が出来上がるんです。事実、それが現在まで残っています。
同じ絵師で同じタイトルの作品なのに、配色が違う…。
ここで価格の差がでます。今でもそうですが、やっぱり初版のほうが価値が高くなってきます。
実は浮世絵百科事典とか、美術館にある浮世絵の図録とか、そういう本でもこれを確認することができます。同じ作品を探して、見比べてみてください。
浮世絵って、絵それ自体だけでなく、工程や配色、落款(サイン)や極め印*1に注目して観るのも面白いですよ◎
今度こそ終わる!ほぼほぼ浮世絵の話になってしまいました…トホホ。
浮世絵も好きだけど、本当は現代美術が大好物のにゃんちーでした。
ん。満足。風呂入って寝る。ぐっにゃい。
*1:浮世絵は幕府の検閲を得て初めて発行に至ります。検閲OKの証が極め印です。この極め印の文字は時々で違うので、極め印をみると浮世絵の発行年つまり制作年が特定できます